2024.08.23|ごっちんさんと大衆居酒屋

ごっちんさんはクラフトビールの店に行ってみたいと言ったが、クラフトビールに興味がない上に、大衆居酒屋好きのごっちんさんの好みの店でもないと思う。
そろそろ出ましょう、と店を出て、今度はごっちんさんの好きそうなお店に行きませんか? と言ってみた。ごっちんさんのことだから、どこかに出張で出かけるときは、その地域の飲屋街やザ・大衆居酒屋を検索しているはずだ。案の定、ごっちんさんには狙っているお店があった。
「本当にいいんですか? 佐柳さんの好みの店じゃないと思いますよ」
ごっちんさんと一緒に大衆居酒屋に行っていた時代もあったじゃないですか。そういうのも嫌いじゃないですよ。
「本当にいいんですね?」と言われながら、ごっちんさんが行ってみようと思っていたという店に向かう。
そこは、ザ・大衆居酒屋だった。看板がいい、とごっちんさんは言う。「『大都会』ですよ?」
半地下のようになっていて、階段を降りて店に入るのだが、階段は行列だった。大人気だ。
一緒に飲み歩く人がほとんどいなくなり、ひとり飲みでは目的として「ただ飲む」のではなく「クラフトビール」を求めるようになってしまったので、こういうお店は実に久しぶり。ご無沙汰だ。
そのためもあってか、店に入ってからちょっと閉口した。煙草の煙から離れた生活が続いていて、本当に苦手になっていた。その上、普段の生活の中では喫煙は別の場所になっていることが多く、存在さえ忘れている。店に入って初めて、「あ、そうか、こういうお店は煙草可だ」と気づく。しばらくすると鼻が慣れて、よほど近くで吸われるのでなければ気にならなくなった。(隣の席などから流れてくる目に見えるくらいの煙は、やはり普段隔離されているので慣れないが。)
ごっちんさんはとても嬉しそうで、楽しそうだった。やはりこういう店が好みらしい。
「見てくださいよ、この値段。これで本当に刺身が来るんですかねぇ?」来た。
「餃子、こんなにあって値段がこれ。すごいですよね」そうですね。
注文方法は、券売機で食べたいもの・飲みたいものの券を買い、ぐるりと回っているカウンター席の端の注文口まで行って置いてくる、という方式。券売機で買うときに卓番を入力する仕組みだったか、出てきた券に卓番を記入する仕組みだったか忘れた。
話をするというより、お互い感嘆しているだけだ。そんなものだ、彼と共通の話題なんてそうそうない。
よくよく聞くと、どうやらわたしに気を遣って「クラフトビールの店に行きたい」と言ったらしい。ごっちんさんはこういう店の方が好みだが、彼はこっそりわたしのInstagramを見ている(教えたことはないのになぜか知っている)。わたしが楽しめる店にしようと思ったのだと言っていた。なぜ??
なぜかというと、昨年度、ごっちんさんが仕事で苦しい思いをしているときに、ちょっとだけモーニングにつきあって話を聞いたことがあったからだそうだ。「あれでホントに僕は助かったんで。お礼です」とのこと。
言われるほどのことはしていないけど。30分くらいしか時間取れなかったし、含蓄のある言葉をかけたりもできなかったし。でも誰かに聞いてもらうだけでよかったようだ。分かる、そういうときはあるよね。ごっちんさんは仕事上の悩みを職場ではあまり言わないだろうと思う。そういう人だ。言わないのか、言えないのか、分からないが。大きく年の離れたお姉さんみたいなわたし、非正社員の(=正社員仲間ではない)わたしだから言えたのかもしれない。
それに対するお礼だとのことなので、有難くこのお店ではごちそうになった。安いと言っても、あれこれ注文すればそれなりに会計は高くなる。ごちそうさま。
ごっちんさんは帰りがたいらしく、「でも終電がありますもんね」と言う。
この日は金曜日だったので、わたしは朝までつきあっても構わない。そう言ったが、ごっちんさんは迷いに迷い、決めかねていた。
「分かりました。終電が**分なので、その5分前までに決めてください(ホームまで行かなきゃならないから)。それまでに決められなかったら、今日はそういう日じゃないってことですね」
「んー。本当にいいんですか?」
いい。さっき夫にも連絡して、「今日は朝まで飲む」と言ってある。
結局、ごっちんさんはさらに数分迷い、わたしが決断した。「**分になったので、じゃ、帰りますね」
ごっちんさんは「佐柳さんとはまた絶対機会があるって、僕、思ってますから」と言い、わたしは「はいはい、やれやれ」という気持ちで挨拶をして急いで立ち去った(終電までに電車に乗るならここからまだ結構駅構内を歩くので、ぐずぐずしていられない)。
ごっちんさんは常に、わたしにとっては「面倒な若者」である。
でも、感謝してくれてありがとう。お礼にと誘ってくれてありがとう。ごちそうしてくれてありがとう。
また、機会があったら。おやすみなさい。
End...