「統合失調症をたどる」
- 統合失調症をたどる (中井久夫と考える患者シリーズ 1)
- ラグーナ出版
- 2015-11-11
- 本
統合失調症について分かりやすい本だというので、読んでみた。
なるほど、よい本だった。
わたしは統合失調症の人と接する機会がこれまでにもあり、これからもときどきあるかもしれない。
一人の統合失調症の人ではなく、そのときどきで出会う何人もの統合失調症の人だ。
かといって、医療従事者ではない。
そういう人は意外にあちこちにいるように思う。
たとえば同じ社内の人にいたり、家族がなっていたり、あるいは何らかのケアスタッフだったり(でも病院ではない)、さまざまな状況で。
知っておいてもよいとは思うが、精神科の医者でも看護師でもないので、医学的な専門知識や看護のための専門知識までは要らない。
そういう人にお勧めな本だと感じた。
もっと読みやすい本としては、体験記がある。
うつ病の人の体験記や、発達障害の人のエッセイなどがあるように、比較的数は少ないが統合失調症の人の体験記もあった。
しかし体験というのは人それぞれ、同じ病名でも症状は人それぞれだ。
体の病気でも同じだと思う。まったく同じ経過をたどることはあまりない。「私の場合はね――」というのが多い。複雑な病気になればなるほど、さまざまなのではないかと思う。
体験記は、読み物としては面白くて読みやすい面があるだろうが、それだけをうのみにするわけにはいかない。
2冊の体験記を読めば、同じ部分、似た部分もあろうが、違う部分もあるだろう。
だから理解に役立てようとして読むなら、体験記だけではなく、総合的にまとめた本も読むべきではないかと思う。
または何冊もの体験を読んで、自分で同じパターンや、個別に違うことを抽出するか――それは素人には大変だ。
この本は、素人が読んでも分かる、分かりやすくまとめられた本だった。
構成もよかった。
ベテランのプロの見地から語られたことを、専門家でなくても分かるようになるべく平易にまとめてあり、そのあとに数人の統合失調症の人たちの体験が書かれている。
「この時期はこのような症状がある」ということが分かったところで、「自分はその時期、こうだった」という簡単な体験談が複数載っている。
また、内容がわたしの役に立つ方向のものだった。
他の本を読んでいないので、自分では分からないが、まえがきのようなところや、本の説明などに書かれていた。
曰はく、「これからどうなるのか?」という患者や患者の家族の不安に応える本、どのような原因で発症したかを語る本は多いが、どのような経緯をたどるかを説明した本は少ない、など。
確かに、原因は治療をする医療従事者には大切なことだろうけど、統合失調症と付き合っていく当人、その当人と付き合っていく周囲の人間にとっては、「で? どうしたらいいの?」「どういうとき、どうなるの?」「どうやって対処したらいいの?」が大切だ。
そういう方向から書かれている数少ない本だという。
「考える患者」というシリーズになっているが、シリーズを全部読まなくても、とりあえずこの一冊だけでも良い。
これは、わたしにこの本を教えてくれた人の言だ。
わたしは読んでよかった。
一気に読むほど面白かったし、読みやすかった。
面白いというと誤解を招くかもしれないけれど、興味深い、なので退屈しない、引き込まれるということだ。
「いいね!」ボタンと同じことだ。
勢い余って、図書館で統合失調症についての本を検索してみたが、なるほど医療関係の本が多かった。
それらはわたしには『面白い』かどうか疑問だし、不要でもある。
この本は、統合失調症について理解するほうがよい理由があって、でも医療従事者でない、という人に最適だ。
教えてくれた人に感謝。
そしてわたしも、お勧めする。