ヤギはけものくさい
ヤギは匂いが強烈だという話で、それもまったくうなずける。
というのも、もう20年も前、まだチーズもワインも初心者だった頃、かっこいい恵比寿のワインショップで買ったのだ。ヤギのチーズを。
小さいのに高かった。
当時のわたしの職は時給865円のサービス業店員。
(小さいチェーン展開をしていたが、ほかの店の在籍1年のアルバイトさんがマネージャーという名称の店長みたいなものになるので、時給が10円上がったのだった。で、その時点で3年在籍していたわたしが、一度も昇給したことがなかったので、1年5円で15円上げてくれたのだ。)
恵比寿には、当時関東最大級のTSUTAYAがあり、さまざまなマイナービデオを借りたくてよく行っていた。
とにかくその程度の働きぶりだから、貧乏だ。
何回も迷って買わずに帰ったりして、ついにある日買ったら、ものすごく臭く感じた。
今でもわたしはチーズはあまりすごいのは食べられない。ワインの知識もそれほど増えず、舌もそれほど肥えなかったから、どちらも初級レベルを超えていない。
臭うのは分かっていたけれど、2年くらい前に北海道物産展でヤギのミルクを買って飲んでみた。
小さい容器で、たぶん200mlもなかったと思う。だから大丈夫かなと思った。
精製されていて、きっとおとなしい味になっているだろうし。
予想通り、そのくらいなら飲み切れたけれど、まったく違和感なしというわけではなかった。
やっぱりヤギは臭みがあると思った。
沖縄旅行に初めて行ったとき、ホテル内の居酒屋さんがおいしくて、ヒージャー汁というヤギの料理がのっていたので迷った。
お店の人は「かなりくせがある」と言うので、やめておいた。
それから調べてみると、沖縄のヤギ料理は有名で、そして「独特の臭いがある」「クサイ」「沖縄の人でも食べられない人がいる」といろいろ読んだ。
ヤギはちょっとやそっと清潔にしていても、ヤギ小屋などにはすごいニオイが漂っていることもある。
これも沖縄で、お菓子御殿の裏手のヘゴ原生林を散策したとき、異様な臭いニオイがしてきて、何かと思ったらヤギなどの小屋が隅のほうにあった。
相当遠くまで臭っていた。
けものくさいというか、おしりくさいというか、そんなニオイ。
わたしはラムは食べられるようになった。
マトンまでは食べられる。量にもよるけど。
でもまだヤギは無理だと思う。
2015年、もしかしたらこれが最後の沖縄に行って、帰ってきて別の日記ブログ用に下書きをしていたとき、ヤギ料理についての記事が出てきてあれこれ見た。
やっぱりクサいようだ。
・・・・・・「アルプスの少女ハイジ」では、ロッテンマイヤーさんは一人だけヤギを嫌って、まるで悪者扱いだったけれど、仕方ないかもと思う。
ロッテンマイヤーさんはもともと動物が嫌いである。「けだもの」と呼んでいる。
フランクフルトでハイジを罰するため地下室に閉じ込めたら、ハイジがねずみと遊んでいて大騒ぎになった。(まあ、ねずみは危険だと思う。ヨーロッパだし、ねずみというと疫病もイメージされて怖い。)
――ちなみにこれにより、服が焼かれてしまい、ハイジはフランクフルト用のお嬢さま服に切り替わるのである。
ハイジが街で知り合ったアコーディオン弾きの少年が来たときも、彼が連れ歩いている小さなカメのためにロッテンマイヤーさんは大騒ぎした。
ハイジが教会でもらう約束をした子猫が届いたときも、ロッテンマイヤーさんはテーブルの上に飛び乗って大騒動。
一匹だけ残しておいたミイちゃんが発見されたときも、大騒ぎ。
クララに付き添ってデルフリ村にやってきたら、ヨーゼフにおびえ、ヤギにおびえ、苦労の連続だ。
すべてをすんなり受け入れたクララやクララのおばあさまとは対照的なのだ。
でも――
デルフリ村に着いて、馬車から下り、おじいさんとハイジの『冬の家』にやってきたロッテンマイヤーさん。
門を入ったところで、敏感に察知して足が止まる。
「ハッ! におうわ! けだもののニオイ!」
そこは今は山に行っていていないけれど、ヤギ小屋だ。
あれはきっと正しい。実際のところ臭うだろう。
クララはハイジに会えた喜びで麻痺していて、のちにやってくるクララのおばあさまは大人だから顔に出さなかっただけだ。(クララも大人だから半分麻痺してたけど、半分くらいは我慢していて、そのうちに慣れたのかもしれない。)
山の小屋で「お乳飲む?」と聞かれて、クララは躊躇なく「いただくわ!」と言うし、一気に飲み干し「おいしい! おかわり!」と言ったりする。
それはどうだろう。
生のままの無精製の原液ヤギミルクだ。飲むなら一気に飲むべきだろうけど、おいしいかな。おかわりほしいかな。まだ慣れてもいないだろうに。それとも元からチーズなどが大好きな体質だったのかな。
ハイジたちが作っているチーズだって、ヤギのチーズだ。
見ているととてもおいしそうだけれど、その場にいたらニオイがかなり強いかもしれない。
しかし沖縄ではものすごい滋養強壮剤としても珍重されているそうだから、ヤギがあってこそクララも立てるようになったのかもしれない。
実際のところ、あそこでずいぶん頑張ったロッテンマイヤーさんは、クララを心から大切に思うすごい人だった。
-----おまけ-----------------------------
ヤギの究極の料理についてだけれど、下世話あるいはグルメな興味以外にも、ヤギは沖縄でも好き嫌いが分かれる料理。好きな人は大好き、絶品だ究極だと感じるし、苦手な人は食べられない、ということがよく分かる。
http://haitai.mag.ink/c/en237aue
ヤギの料理体験談だが、最後まで読むとニオイについても、料理法によって違うことも、強壮剤としてすごいことも分かる。
http://www.satonao.com/special/okinawa/yagi.html