最終回(シリーズ:翌4月からの仕事)
嬉しいことは嬉しい。
でもこれまでの仕事も気に入っていたわたしにとっては、微妙な思いもあった。
いくら気に入っていても、でも有休がとれるような職のほうがいいと感じてたんだから、とも思うけど、「次善の策」といった感は否めない。
人間関係が複雑怪奇に絡み合っていて、契約社員的スタッフはいろいろ大変だと聞く。
それ以外にもいろいろ脅される。
やっぱり――「大喜び」というより、「次善の策」といった感は否めない。
第二部長補佐がわたしをできれば蹴落としたいと思っていたことは、どうやら確実だったようだし。
でもここにも「複雑怪奇な人間関係」があって、表立っては落とせなかったらしい。まったく目立たない、誰にも分からない程度の些細なことで、あちこちにトラップを張っていたのだ、わたしが感じていたように。
そして採用はしなければならなくなったが、居心地の悪い部署に配属しようと、最後まで諦めなかったらしい。6~7人で締め切るはずの面接も延長してこなし、なんとか誰もが納得する「素晴らしい人材」を発掘し、「こういう人にあの部署に入ってほしい」「じゃあ、彼女は『居心地悪部』のほうにしましょう」と持っていこうとして。それも望み薄になっても、最後の最後まで、第二部長補佐は「彼女は『居心地悪部』のほうに」と言っていたと聞いた。
しかしとにかく採用されることになったし、部署もどうやら『居心地悪部』のほうではないようだ。別にもうひとつが『居心地良部』というわけではなく、『悪部』が最悪だっていうだけなんだけど。
それで、わたしの数少ない友達に報告した。
お世話になっていた人にも報告した。
友達のうち2人とランチに行くことにした。
決まったのがかなり遅くて、あっという間に4月になってしまうから、「明日行ける?」という急な話だったけれど、会うことができた。
1人は派遣をしていて、ずっと同じ職場で働いてる。どのくらいになるかな?
少なくとも10年は経つんじゃないかな。
まいこーちゃんという。
まいこーちゃんが「3年問題があるでしょ、それをね・・・・・・」と話すのを聞いて、なんだっけ?と思った。
説明を聞いて思い出した。そういえば、そうだった。同じところに最長3年までしかいられなくなるのだ。法律改正によって。
――あれ、今は「3年問題」と名称がついたのか。
派遣など臨時雇いを減らして、正規雇用を増やそうという流れの法律改正。
わたしが最後に聞いたのは、1年くらい前だったと思う。それ以前に既に「最長5年と派遣法が」云々と言われていて、最後に聞いたとき「労働契約法で最長3年と決まり」云々と言われた。
まいこーちゃんが、この3年問題について「弱い者いじめにしか思えない」と言い、わたしもまったく同感だと思った。
今はどうせリストラされてしまった身で、もう次は派遣はできない、何か探さなきゃと思っていたから、忘れてしまっていたけど、リストラ前はわたしもそう思ってた。今でも共感する。
弱い立場で働いている人を守ろうというのじゃなく、「お前ら、もう安易な形で働くのをやめろよ」と言っているみたいだ。「全員、正社員、いいね?」みたいな。
事情があって派遣で働きたいってことだってあるのに。(わたしはそうだった。やりたい仕事は毎日ではないし、派遣がなかったら生活できなかった。つまり「やりたい仕事なんて、贅沢なこと言うなよ。そんなのは主婦がお遊びでやればいいんだよ、生活かかってるやつは正社員になれよ」ってことなんだろうな。)(でもいろんな事情があると思うんだよ、弱い立場で苦しんでいる人もいるかもしれないけど、「この働き方でやっていきたい」と思って選んでいる人もいる。)
まいこーちゃんの話を聞いて、「そうか!そういえばそうだった!」と思い出す。
最近なんでもすぐ忘れちゃうから――自分も心配してたことだったのに。
なんだったら派遣で働こう、なんて、今は難しいんだ。
一応、契約社員的スタッフは一年ごとの更新なので、正社員ほど「クビを切られない」というわけではない。
とはいえ、これまでの立場や職を考えたら、安定したんだよな。
それから、予定があってランチには来られなかった、ろむさんが合流。
女子らしくホットケーキやパンケーキの店で、お茶タイム。
ろむさんはわたしやまいこーちゃんより、少し年上。
働くとしてもあと5~6年くらいかな、と言っていたが、今のところは去年までしていた仕事もなくて、無職なのだという。
「電話で、○歳だって言うと、その時点で、うちは若い人をとりたいのよねぇ~、って言われちゃって」と話していた。
そうだよなー。
年をとっていくにつれ年々厳しくなるという意味では、ろむさんのほうがわたしより大変だということになるけど、世間一般ではわたしももう「年齢が分かった時点でお断り」世代。
運がよかったんだよなー。
これまで地道につないできた人脈がたまたまあるときに、たまたま自分の仕事がなくなるという事態になって、それがあったからたまたま契約社員的ポストの話が持ち上がって、いろいろ陰の攻防はあったけどそれもたぶん、他の会社にゼロから行くより全然楽で、ちゃんと契約社員的スタッフとして採用されたんだから。
「次善の策」なことはやっぱり変わらないんだけど、タイミングのよいラッキーな「次善の策」だったと思えた。
友達ってありがたいな。こういうことに気づかせてくれるから。
「運がいいんですよ!」と叱るのじゃなく、自然に気づかせてもらえるから。
4月から、ストレスはたくさん増えると思うけど、でも運がよかったんだから、そこそこに頑張っていこう。
――控え目にそこそこにやっていくことが、きっと大切な職場だと思うから。
それに頑張りすぎると、自分がつぶれちゃうからね。
※明日から4/3まで春休みにしようと思います。