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職人 vs 芸術家 vol.2

(記事本文が30000文字以内というメッセージが出たため、vol.1から続く)

vol.1 http://ss2s.muragon.com/entry/121.html



宮崎駿監督というのは素晴らしい映画を撮り、アニメの新境地を開いた。

この人には職人気質が多分にあると思う。

あれほどのこだわり、そのこだわりを妥協できない気質。たとえば、「風の谷のナウシカ」で、髪の一本一本まで丁寧に描きだしたいと願い、どれだけ手間とコストがかかろうとも実行したこと。一流の漆塗り職人が、どれだけ手間と時間がかかろうとも塗りに妥協できないと思うのと同じじゃないかと思う。

 

カット割りや演出にも、長年の鍛錬による「腕」を見ることができる。

 

芸術性はある。もちろんある。

だけど、職人としての腕がなければ、あの完成度は作れないだろうと思うのだ。

職人だと言うのは、感動から出る賞讃であって、芸術家のレベルに達していないと言っているわけではないのだ。

 

というのも、何気なく「宮崎駿監督は職人だと思う」と言ったら、その理由を説明するに至るまでもなく、その場にいた全員からコテンパンに「えー!あの人は職人じゃないよ!」「芸術家だと思う!」とやっつけられたからだ。

そのあまりに早く、あまりに激しい否定には、「芸術家>職人」という図式があると感じた。

 

わたしはバレエを見るのが好きだ。

バレエでも「日本人はテクニックがあり上手だが、芸術性が低い」と自らも思っていて、コンプレックスを感じている。

昔、伊藤みどり全盛時代に、技術点が高いのに、芸術点でジャンプも低い欧米選手に負けるのも同じだ。でも見ていてエキサイトして楽しいのは、やっぱり高いジャンプ、早いジャンプだった。

 

芸術家なのはもちろん芸術家だと思う。それは全然否定しないけど、芸術家が偉いというわけではない。

映画において、多くのディレクターズカット版が、わたしにはあまり良いとは思えない。仕方なくカットした公開版のほうがすっきりまとまっていて面白かったりする。思いが強いことが良いとばかりは言えないと思うのだ。

 

宮崎駿監督が超大作アニメ映画を撮るまでに、どのように鍛錬を積んできたか、知っていて「えー、全然職人じゃない」と言っていたろうか?

実はわたしは名作劇場の「アルプスの少女ハイジ」が好きで、毎年1回は全52話を見ていた時期もある。(さすがに飽きるほど見たので、今は5~6年に1回。)

大人になって見てみると、「宮崎駿」の名は毎回出てくるのだ。場面設定・画面構成を担当している。

演出は高畑勲だった。

 

下積み時代があり演出技術も磨かれたからこそ、アーティスト気質が暴走するのを職人の感性が抑えてくれる。

アーティストの面を自由に出せるようになった後年の作品(たとえば「ハウルの動く城」より、抑えが効いていた前半の作品のほうが、わたしは完成度が高いと思っている。

 

 

職人も芸術家だ。芸術家でなければ一流の職人になれないのだと思う。

しかし芸術オンリーでは、完成度で劣る場合も多い。

 

少し前に「わたしが好きなタイプの音楽はこれだ!」と発見してハマった、メロディックスピードメタル。

どのようなバンドがあるか、またその中で有名なバンドは? 有名でなくてもマイナーでもいい、お勧めバンドは? とあれこれ検索した。

そしてYouTubeで聴いてみた。

 

発想力で素晴らしいメロディを作っているのに、こりゃまたひどい演奏レベル、というバンドもあった。

素敵に「メロ」でエモーショナル、かつ速さもあって、いい曲――だが、歌が壊滅的に下手すぎて浸れないバンドもあった。

 

テクニックがなければ、発想がよくても感動できない。

 

アルバムを重ねるごとに、だんだん演奏がうまくなっていったバンドもあった。

最初は荒削りだった曲作りも、うまくまとめられるようになったバンドもあった。

 

――ただ、なんともいえないところはあった。

荒削りだった最初のものが一番「メロ」だった、ということも多かったからだ。

メロディックスピードメタルにおいて、「メロディック」部分は重要だ。これがなければ「スピードメタル」という別のジャンルになってしまう。

 

うまくまとまりすぎるのも今ひとつな時もあるわけだ。

 

 

とはいえ、芸術性と職人性はどちらも大切だ。

どの程度のバランスでミックスさせていくかは、創り出したいもの・コンセプトによるのだと思う。

 

ポルシェやランボルギーニのようなイタリア車なら、乗りにくかろうが不具合が起きやすかろうが、芸術性多めにしなくてはならない。

NSXやフェアレディZのような高性能日本車なら、走りや形状を重視しつつ、最高の技術も搭載して、芸術性と職人性の両方をうまくミックスさせなければならないだろう。

舗装路も修理場もレアな埃と乾燥の大地で乗るなら、なんといっても頑丈にできているものでなくてはならず、頑丈さ、故障の少なさで選ばなければならないだろうし。そういう車も必要だ。

 

 

芸術性と職人気質はどちらが偉いというものではない。

職人性のない芸術は、野放図になりすぎて、感動させる力が弱まるときもある。

芸術性のない職人は、優れたテクニシャンにまではなれるかもしれないが、一流にはなれないだろう。

 

どのような配合でミックスさせるかは、これこそ感性だ。

うまくいったときは最高のものができる。

 

 

 

 

やたらと長く、まとまりがなくなったので、あまり関係のない締めにする。

 

「メロディックスピードメタル」を「クサメタル」と通称するのは、とてもうまいネーミングだと思う。






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