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Status Message:周回遅れのビール日記(順不同)

「カリブ海の秘密」「復讐の女神」(アガサ・クリスティ)

正月に実家に帰っているとき、ノートパソコンをしようと思ったが、あまりの寒さにできなかった。

正月くらいまでは暖冬だったから、暖房器具を出していなかったのだ。いくらいつもよりちょっと暖かいっていったって、やっぱり寒いよ――すきま風が入るし、うちはなんだか断熱材がちゃんとしてない感じだし。

 

本でも読もうとアガサ・クリスティを取り出した。

アガサ・クリスティはわたしが好きで集めていたのだが、それでIが読み始め、わたしが手持ちを譲ったことがある。それで実家に置かれている。

 

ミス・マープルは短編が合うと思う。

そう思って短編を読んだけれど、読み終わりそうになってあれこれ物色したら、「復讐の女神」があって、あとがきに「カリブ海の秘密」に出てきたラフィール氏の遺言で捜査を依頼されるという。

 

アガサ・クリスティは好きでどの作品も少なくとも3度は読んだと思うが、最後に読んだときから時が経ちすぎて、全然覚えていない。

でも長編を読む時間はないなぁ。

 

それで家に戻ってから、手持ちの「カリブ海の秘密」を読んだ。

そのあと「復讐の女神」も読んだ。

 

書いた年代が違うのかな。ずいぶん作風というか、文章というかが違う。

「復讐の女神」は理屈っぽい。

「カリブ海の秘密」のほうが読みやすかった。

 

しかしまあ、どちらも楽しんだ。

 

「カリブ海の秘密」では、ミス・マープルはカリブ海の島に旅行に行っている。甥のレイモンドの嫁がおごってくれた旅行だ。

甥のレイモンドは作家で、つましい暮らしのミス・マープルにときどき贅沢をさせてくれる。

 

そのリゾートで、事故だと思われた退役大佐の死が、殺人ではないかとミス・マープルは思う。それから第二、第三の殺人が起こる。

 

リゾートに滞在している人の中に、大金持ちの毒舌家ラフィール氏がいる。彼は大金持ちだが病気の障害者。もう長くないと言われている。

秘書とマッサージ師を連れていて、世話をされながら、リゾートから電話で仕事もしているという大人物。痛みに苦しんでいて、その分、意地悪な言動をする。

 

ミス・マープルははじめ、ラフィール氏から馬鹿にされた存在だったが、最後にはラフィール氏と協力して殺人犯を捕まえる。

 

「復讐の女神」では、ミス・マープルは自分の村セント・メアリ・ミードにいて、新聞を見ている。最近よく見るのは、一面のニュースではなく、死亡欄だ。もはや結婚欄も知人たちの娘ですらなく、孫の名前になっていて、あまり興味を惹かない。

ミス・マープルはその中に、ラフィール氏の名前を見つける。

「とうとう亡くなったんだわ」

 

「あの人はあの秘書の人に20万ポンドを贈ったのかしら」

ラフィール氏には秘密の計画があったのを、ミス・マープルは知っていた。自分の秘書には、「自分の死に際して遺産などは贈らない。その代わり生きて雇っている限り高給を支給するから、貯金をしておくように」と言ってある。しかし実は遺言には秘書に20万ポンド贈ることが書かれている。彼女はあとで驚くだろう、と。

 

ところがラフィール氏はそれだけでなく、ミス・マープルにも用意していたのだ。5万ポンドという大金を。

ただし条件がついていた。「あることに対して彼女が力を発揮してくれたら」という(正確な言葉は忘れたけれど)。

いったいそれが何なのか、ミス・マープルには分からない。あのカリブ海でのことを思えば、たぶん事件なのだろうと思う。復讐の女神になってくれということだと思う。しかし何の事件? 誰が犠牲者? 誰のために?

 

五里霧中の中、ミス・マープルはとりあえず引き受け、ラフィール氏が用意しておいた庭園ツアーに参加する。

その後もラフィール氏が用意した何かがときどき提示され、ミス・マープルは少しずつ推理を始める。

 

もちろんミス・マープルは成功するのだ。そして5万ポンドをもらうことになる。

弁護士事務所は「もしご希望なら自分のところで投資もいたします」と言うが、ミス・マープルは5万ポンドを預けたりせず、使うつもりだと話す。

「この年になって貯金や投資をしたところで、役に立ちませんわ。あの方はきっと私がこれまでちょっとしたお金がなくてできなかったことをして、いろいろ楽しんでほしいと思っていらしたのでしょう。私、このお金を使いますわ。ええ、これまでしたいと思ってもできなかったことに」(正確な言葉は覚えていないが、こういう趣旨のことを言う。)

 

ああ、これだよ、これ。そうだよ、そう。

 

わたしはミス・マープルの幸運を喜び、羨ましいと思い、まったくその通りだと思う。

わたしはミス・マープルのようにきちんと生きてきてもいないし、人の役に立ったこともないけれど、こういう幸運があったらどんなに嬉しいかと思う。

そしてそれは使うべきだと思う。遺すべき子孫もいないのだから。(ミス・マープルもミスというわけで、老嬢なのだ。)

ミス・マープルの甥のレイモンドと嫁は裕福だし、援助する必要もない。

これまでできなかったこと――ちょっとしたお金がなくてできなかったことを、リューマチの体が許す限りするべきだ。

 

そのためだけに読んだようなものなのだ(パラパラとあとがきを見ていたとき、そのセリフに出会ってそれで「カリブ海の秘密」から読み返してみたのだ)。

話としては「カリブ海の秘密」のほうが面白かったが。

 

とにかく、これだよ、これ。そうだよ、そう、と賛同したのだった。




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